GUIDE
指標の読み方ガイド
解析結果には性格の異なる2種類の数字が並んでいます——OWAS(オワス)による 自動採点(AC1〜4)と、曝露指標(保持時間・角度帯にいた時間)。この2つを混同して 「OWASの全体スコアが良くなった/悪くなった」だけで結論を出すと、実際には 起きていないことを結論づけてしまう場合があります。実測データを使って、 なぜ2種類の指標が必要なのかを説明します。
1. なぜ指標が2種類あるのか
OWASと曝露指標は、競合する2つの評価方法ではありません。見ている目的が違う道具です。
| OWAS(標準採点) | 曝露指標 | |
|---|---|---|
| 役割 | どの作業内容に手を入れるべきかの優先順位付け | 対策が効いたかどうかの効果検証 |
| 性格 | 人間工学の国際的な標準手法による、共通言語のスクリーニング | 角度・時間を高い時間分解能でそのまま測る実測値 |
| 得意なこと | 作業内容の比較(どこが一番悪いか) | 施策の前後比較(対策で本当に減ったか) |
| 例えるなら | 健康診断の総合判定(A/B/C/D) | 血圧・体温そのものの実測値 |
健康診断で「総合判定がAからBに変わった」だけでは何が変化したか分かりませんが、 血圧や体重の実測値を見れば具体的な変化が分かります。両方を併せて見て初めて正しく状況が分かります。
2. OWASでできること・できないこと
OWAS(Ovako Working posture Analysing System)は、背部・上肢・下肢の姿勢と 取扱荷重の組み合わせから、作業姿勢を4段階の改善優先度(AC: Action Category)に 分類する、人間工学分野で広く使われる標準的な手法です。本サービスは側面から 撮影した2D映像から、この判定に必要な情報を自動で読み取ります。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 背部(まっすぐ/前屈・後屈)の自動判定 | 頸部(首)の負担は評価対象外(OWASは背部・上肢・下肢・荷重の4項目のみ) |
| 上肢(腕の高さ)の自動判定 | アシスト機器の「支持力」は評価できない(姿勢の見た目=幾何形状だけを見る手法のため) |
| 下肢(膝の屈曲)の自動判定 | 体幹のひねり・座位・膝立ち・歩行は側面2D映像から自動判定できない(該当する場合はオプション入力で補完) |
| 作業内容ごとのAC分布の集計と優先順位付け | 4段階の粗い分類のため、境界付近の作業では数値が振れやすい(「閾値感度」参照) |
できないことを隠さずお伝えするのは、限界を理解したうえで使っていただくことが 正しい判断につながると考えているためです。
3. 実例で見る「全体スコアだけでは分からないこと」
アシストスーツ装着前後(条件を揃えた同一作業)の映像を比較した実測結果です。
3-1. 一見、良い結果に見える
| 指標 | 装着前 | 装着後 | 差分 |
|---|---|---|---|
| 全体のOWAS AC1(問題なし)率 | 34.6% | 46.3% | +11.7pt(改善) |
この数字だけを見ると「導入でリスクが11.7ポイント改善した」と結論づけたく なります。しかし、これは早計です。
3-2. 要因分解すると、実態は違う
全体の差分を「作業構成の変化による部分」と「各作業内容の中の姿勢そのものの 変化による部分」に分けて計算する要因分解を行うと、次の結果になります。
| 要因 | 寄与 | 意味 |
|---|---|---|
| 作業構成の効果(mix) | +16.9pt | 中腰で作業する時間の割合が66.9%→52.6%に減り、立位の割合が 19.3%→42.1%に増えたことによる寄与 |
| 作業内の姿勢の効果(within) | −5.2pt(悪化) | 各作業内容の中での姿勢そのものの変化による寄与。プラスではなくマイナス |
3-3. なぜこうなるのか
アシストスーツは、膝を曲げた中腰の姿勢を機器が支えることで負担を 軽減する製品です。ところがOWASは、膝が曲がっているという見た目の幾何形状だけを 見て減点する仕組みで、その姿勢を機器がどれだけ支えているかは判定に反映されません。 そのため、スーツが効いているはずの中腰姿勢で、むしろOWASの点数が悪化するという 結果が起こります。
3-4. 曝露指標では、効果がはっきり見える
| 指標 | 装着前 | 装着後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 頭部前傾45度超の保持時間(合計) | 131秒 | 46秒 | −65% |
| 体幹前傾10度超の保持時間(合計) | 54秒 | 28秒 | −48% |
OWASでは見えなかった負担軽減の効果が、曝露指標では明確に確認できます。
3-5. まとめ方を誤らないために
この実例は「OWASが使えない」という話ではありません。同じ検証データで、 中腰の作業(作業時間の66.9%)は最悪AC3まで悪化する一方、立位の作業はAC1が 99%を占めており、「どの作業の優先度が高いか」という判断にはOWASが正しく 機能しています。
4. 結果を読む手順
- 作業内容別のAC分布を見る。どの作業のAC(改善優先度)が悪いかを確認し、手を入れるべき作業の当たりをつけます。
- 対策の前後を比べるときは、必ず「要因分解」を見る。全体のAC1率の変化だけでなく、作業内の姿勢の効果(within)の符号を確認して ください。これがプラスでなければ、姿勢そのものは改善していません。
- 「閾値感度」の警告を確認する。振れ幅が大きい警告が出ている場合、その作業姿勢はOWASの分類の境界付近に 集中しています。AC値を絶対的な水準として読まず、同一条件で撮影・解析した 条件間の相対比較として読んでください。
- 効果の有無は曝露指標で確認する。保持時間・角度帯にいた時間を見て、対策による負担軽減が実際にあったかを 確認してください。
5. 用語ミニ辞典
| AC(Action Category)1〜4 | OWASによる4段階の改善優先度。AC1=問題なし(改善不要)、AC2=近い将来に 改善が必要、AC3=できるだけ早期に改善が必要、AC4=直ちに改善が必要 |
| time-in-band(角度帯にいた時間) | 関節角があるしきい値の範囲(帯)にいた時間の割合。曝露指標の基本単位 |
| 静的保持 | しきい値を超えた姿勢が一定時間(0.5秒以上)連続した状態。 回数・頻度・継続時間・合計時間で集計する |
| 作業内容 | 映像を「台上作業(中腰)」「床上げ下ろし」などの区間に分けたもの。 この単位でOWAS・曝露指標を集計する |
| 要因分解 | 全体の数値の変化を「作業構成の変化による部分(mix)」と「各作業内容の中の 姿勢そのものの変化による部分(within)」に分けて計算する手法 |
ダッシュボードの読み方
ダッシュボードは、解析をまたいで「いま全体はどうか・どこから手をつけるか・良くなっているか・ 次に何をするか」を1画面で見るためのものです。数字の作り方は次の3点だけ覚えてください。
- 割合は観測時間で重みづけした合算です。 8秒の動画と280秒の動画を同じ重みで平均せず、「観測した時間全体のうち、その姿勢だった時間の割合」 として計算します。解析本数が少ないうちは、1本の長い動画が全体の数字を大きく動かします。
- 「要改善時間の割合」は AC3+AC4(できるだけ早期に改善・直ちに改善)の時間割合です。順位表はこの割合ではなく 「要改善だった時間の長さ」で並べます——観測が長く割合も高い工程が、最も多くの負担時間を 生んでいるためです。
- 集計は工程が主語で、作業者ごとの集計は出しません。姿勢解析は作業のしくみを直すための道具であり、個人の評価に使うものではないためです。 事業所・工程はアップロード時に入力した値を使います。未入力の解析は「(未設定)」にまとまり、 地図と順位には載りません。
期間はアップロード日時で区切ります(撮影日は保持していません)。「再測定の目安」は 最終測定から90日を超えた組に出る案内で、危険度の判定ではありません。
ご利用にあたっての注意(免責事項)
本解析は、映像をもとにした姿勢リスクのスクリーニング支援であり、医学的な診断では ありません。OWASの採点結果は、正式なOWAS評価者による確認を推奨いたします。 腰痛等の症状がある場合や、個別の従業員の健康状態に関する判断が必要な場合は、 産業医等の専門家にご相談ください。解析は単眼(1台)カメラによる2D側面映像の解析を 基盤としており、体幹のひねり・座位・膝立ち・歩行等、映像だけでは自動判定できない 要素があります(該当する場合はオプション入力で補完します)。